2021.06.06

市場ニーズを満たし環境負荷を減らす、これからの食の課題 ~「プレミアム★フードショー2021」から見えたいま(後編)~

三津田 治夫三津田 治夫

アグリカルチャー / コラム / 知活人ノート

前編からの続き)
 コロナ禍で在宅時間が長くなる、飲食店が閉まっているなどの理由から、自炊を始める人が多くなった。
 自炊をすると自分の口に入るものが材料レベルで可視化される。その結果、体調や体重がどう変化するかも気づきやすくなる。同時に「健康な食とは?」に関心を持つ人も増えている。健康な食とはそもそも「健康な環境」から育つものではないか?

子供時代に食べたごはんの味を追求。結果としてオーガニックにたどり着く

日本の主食と言えば、やはり米である。東京都三鷹市にある米販売店「うちの米うまいよ」は、店主である明平行正さんが自らの舌の記憶を頼りに探した「本当においしいお米」をプロデュースする。明平さんは「最初から有機栽培の米を探していたのではなく、おいしいお米を探していたら、結果的に有機栽培のお米が集まった」と言う。
 親の代は農家だったという明平さん。子どものころは家の手伝いで田畑の世話に明け暮れていた。家業は継がずに会社員などを経て現在の職についた。きっかけは、「ごはんがおいしくないなあ」と感じたことだと語る。
 「子どものころ食べていたご飯はもっとおいしかった。何が違うんだろう? と思って、あちこちのおいしいと言われているお米を食べてみた。おいしいなという米を作っている人たちは、みんな自分の親たちが昔やっていたような作り方をしている。やっぱり、それが大事だと気づきました」
 生産者から米を買い付けるだけでなく、かつて自分が体験してきた米作りの知識を生かし有機農法の指導も手掛けている明平さんは、「ライスマーケティングプロデューサー」という肩書を名乗ることに。
 「日本人の“米離れ”と言われて久しいですが、本当においしいご飯が炊けたら、毎日だって毎食だって食べたくなるでしょう。結局、そういうことなんですよ。で、おいしい米はどうやったらできるか。今のやり方じゃなくて原点回帰で、農薬を使わないで有機肥料で育てるとうまいよねって。でも、今の農家さんには、農薬や化学肥料を使わない栽培方法を体験したことがない人も多い。“もっとおいしい米が作りたい” って人には、私の知ってることなら何でも教えますよ」
 明平さんの常連客の多くが「明平さんのところで米を買うようになったら、米がなくなるのが早くなった(笑)」と言う、とのこと。
 「うちの米を見て『なんだ、あの高い米屋は!』と言う人もいます。あんなの買ってたら破産するって。でも実際にうちの米を食べているお客さんに聞くと、いろいろおかずを用意しなくても満足感があるから、素食になったって。結果的に食費は減っているようです」
 「それに現代人は肉摂りすぎとか言われているでしょ。おかずに肉もそんなにいらなくなるから、健康にもいいですよ」

◎「うちの米うまいよ」店主・ライスマーケティングプロデューサーの明平行正さん

たくさん作るから「おいしく作る」へ。有機農法の歴史的背景
 以前、有機農法に挑む若い夫婦を取材したことがある。実家が農家で、一度会社勤めをしたものの、妻とともに脱サラをして実家の農地を一部借りた。米と野菜を育て、鶏を飼い、生き生きと暮らす夫婦の笑顔はまぶしく、苦労はあるが充実した生活を送る2人を、取材スタッフ全員がうらやましがった。
 取材が終わった後、彼らの家で彼らの作った野菜や鶏肉を使った料理のもてなしを受けた。地酒がふるまわれ誰もが上機嫌に語り合う席に、彼らの両親の姿もあった。両親もまだ現役で農業を続けている。が、こちらは有機農法ではない。
 目を細めて今後の夢を語る息子を眺める無口な父親と私は世間話をした。いったん家を出た息子が家業に戻ってきてくれて、こんなふうに注目を集める生産者に育って、やっぱり親の背中を見てたんですね、というような話の流れの中で、父親が苦笑しながら口にしたことを思い出す。
 「まあ……うれしいけど、あんまりおもしろくはないね」
 その言葉に苦笑以上のニュアンスを感じ、先を待った。
 「……俺たちが子どものころは、農薬も化学肥料もなくて、農家の人間は毎日田んぼに縛り付けられてたんですよ。でも農薬が来て、ちゃんと休めるようになって、俺はしてもらえなかった、子どもを遊びに連れていくこともできたし、収穫量も増えて息子が行きたいっていう東京の大学にもやれたし……」
 「農薬や化学肥料使ってると悪いやつみたいに言われるのは……まあ、どうなんだろうね」
 この時、有機農法に挑む息子夫婦を取材に来た人間、つまりは有機農法礼賛派であろう私に、なぜこんな本音を話してくれたのかわからない。
 誰かにいつか言いたかった思いが、たまたま酔いも手伝って、ふと漏れたのだろう。
 取材される息子を誇らしく思う親心と、同業者として、また親として、子のすることによって自分の人生が否定されるような寂しさ。その両方がずしりと伝わってきた。
 この言葉は原稿に書ける話ではなかったが、この取材で得た最も大きなものと言っても過言ではなかった。
 
 有機農法礼賛派の人と話すとよく出てくる「農薬や化学肥料は毒」「あんなものを使っていると人も地球もダメになる」といった言葉が、自分の中で引っかかっていた。
 この話を思い切って明平さんにぶつけてみた。すると明平さんは「ああ……それはわかりますよ。私もその過程を知ってますから」とうなずいた。
 
 「戦争が終わってみんな食べ物がなくて、そういう時代にはたくさん採れるってことはすごく大事だったし、少ない働き手で農業がまわるようになったから、高度経済成長期を支える働き手が生まれたんです。あの時はそれが本当に必要なことだった。それで日本は工業が発展して先進国になった。またそれから時代が変わったんです」
 「今は飽食の時代になって、今度は、たくさん作るから“おいしく作る”に変わってきた。だからまた有機の米が求められる時代になったということなんです」
 
 明平さんのおおらかな笑顔。オーガニック以外は認めない、ではなく、それぞれの農家の事情があることを理解し、その中で自分は、有機農法に挑戦したい人がいれば手助けしていきたいと語る。

◎明平行正さんがプロデュースを手掛けた数々のお米たち

「選択肢の一つとしてのオーガニック」ですそ野を広げる
 「プレミアム★フードショー」の主催者である一般社団法人オーガニックフォーラム・ジャパンの代表理事 秋元一宏さんも「オーガニックでなければならぬ」ではなく、「オーガニックのすそ野を広げる」を主軸に活動を展開する。
 「地球環境問題を考えても、今後の流れは有機農法がもっと増えていくべき。ですが、日本ではオーガニックを特別視する傾向があって、なかなか日常の中に入ってこない。これをなんとかしたいんです」

◎オーガニックのすそ野を広げる活動を展開。オーガニックフォーラム・ジャパン代表理事、秋元一宏さん

 秋元さんの言う特別視とは「オーガニックに凝っている人は怖い」「変わった人」「宗教っぽい」という誤解だ。
 「確かに以前は、オーガニック野菜は有機農法を推進する会みたいなものに入会してないと手に入らず、閉鎖的な空気がありました。僕もそういう会に勉強のために参加して、もっとオーガニックを広めるためにイベントなどをやりたいと発言したら、長老格の人たちから『よそ者が勝手な事を言うな』と、ものすごく怒られたことがあります」
 「でも勉強会が終わった後、その会のメンバーの何人かが『ぜひそういうことをやってほしい』と言いに来てくれて、その時の人たちが今でもプレミアム★フードショーをはじめ、さまざまな取り組みに協力してくれています」
 「確実に空気は変わっているんです。でもまだ世間ではネットワークビジネス的なイメージをお持ちの方は多いですね」

 もう一つ、オーガニック食品から人々を遠ざけているのが「オーガニック食品以外を食べることを許さない」という束縛感だ。
 「うーん、それを言う人はいますね、たしかに。そうじゃないものを一口でも食べたらだめ、ジャンクフードは毒とかね(笑)」
 「僕の感じた範囲ではありますが、そういうふうに厳格なことを言う人は、多くの場合オーガニックにはまりだしたばかりの人です。初期のころって熱量が高いから、周囲に熱く語ってしまい、どうしてもそういう言葉が出ちゃう」
 「でも長くやってくうちに、あんまり言わなくなります。オーガニック食品がおいしいと思うから食べている、という感じになっていきます」
 
日本の伝統的な食と親和性が高いオーガニック
 秋元さんはもともとバイクや車が好きで、モータースポーツのイベント構築を仕事にしていた。当時の友人知人からは「オーガニックとはまた、真逆のところに行ったなあ」と驚かれるそうだ。
 そうしたイベント運営の手腕を買われ大手広告代理店に引き抜かれ、産業廃棄物の展示会を任されたことから、人の暮らしと地球環境の関係性を考えるようになっていく。
 まだ日本に入ってきていなかったロハスという概念に出会い、これを多くの人に知ってもらう活動を手掛けようと、思い切って会社を辞めた。フリーランサーとしてロハス、そしてオーガニックのイベントを手掛けるようになった。
 「ロハスという言葉は、みなさんわりとゆるく使っているじゃないですか。自然と共に暮らす、素敵な暮らしとか、おしゃれな感じで。オーガニックも生産者側はきちんと認証条件を守らなければいけませんが、受け手側にはもっとゆるく、気軽なものとして、日常に入っていければいいと思っています」
 「それ以外ダメ、ではなく、“オーガニックもあり”、くらいの人がもっと増えれば、すそ野がぐっと広がって購買者が増える。結果的にニーズが増えてもっと多くの生産者が有機農法に取り組むようになるでしょうし、もっと幅広い業種でオーガニック商品を扱うようになる」
 「地球温暖化をはじめ環境の悪化に対する意識もだいぶ高まってきましたし、農作物を作る環境を今後どうしていくのかを考えれば、やはり有機農法の推進は絶対に必要です。そのためにも、こうしたイベントを通じて、“オーガニックは怖くないですよ”(笑)というアピールも続けていきます」

 実は日本の伝統的な食品、特に発酵食品はオーガニックとの親和性が高い。関心が高い人でなくても、オーガニック食品やそれに準ずるものがすでに生活の中にあることも多い。
 「例えば出展者の一つであるまるや八丁味噌さんなんか、その代表的な存在です。ロハスとかオーガニックというと、おしゃれな暮らし、ていねいな暮らしをしている人のものと思われがちですが、意外と身近にもあるんです」
 「オーガニックだから選ぶというより、おいしいから選ばれている。例えば、じゃあお米をオーガニックのものに変えてみようとか、調味料を使ってみようとか。何か一つの『おいしかった!』きっかけに、オーガニック食品を選んでもらえたらと思います」

 今後は食品だけでなく、化粧品など、さらにジャンルを広げて紹介していきたいという秋元さん。日常を豊かにしてくれるものとして、オーガニックの魅力をライフワークとして伝えている(おわり)。

(取材・文/湊屋一子)


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